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源流なび Sorafull

人類誕生・NHKスペシャル⑴700万年を辿ってみる

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今回は出雲王国から離れて、久しぶりに地球史を書いてみたいと思います。

1年前に「DNAが語るホモサピエンスの旅」という記事の中で、私たちの祖先がどのようにアフリカから世界へ広がっていったのかをまとめました。

 

 

今年の春から初夏にかけて、NHKスペシャル「人類誕生」が3回シリーズで放映されました。そして先日、リメイク版としてBS1で再放送されました。内容としては上の記事や「日本列島を目指した人たちがいた⑴ ⑵」と重なりますが、新たな情報もあり、とてもよくまとまっていたので、改めて紹介したいと思います。番組は3回連続もので、タイトルが

⑴ こうしてヒトが生まれた

⑵ そしてヒトが生き残った

⑶ ついにヒトは海を越えた

となっています。ここではタイトルを変え、一部順序が入れ替わるところもありますが、大まかには筋通りとしています。

(注)以前の記事や他からの情報は青で色分けして書き込みます。年代については研究機関によりばらつきがあります。

 

人類誕生 

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 700万年前、人類とチンパンジーが進化の上で枝分かれしたと考えられています。両者のDNAの違いはたった1.6%だけだそうです。実際には数字ほどの差もないらしく、遺伝子のスイッチがONかOFFかの違いだけともいえるそうです。そんなちょっとした違いが、これから述べる進化の上で劇的な変化を生んでいくのですから、不思議というか奇跡というほかないような気がします。

それでは人類の進化の過程を大まかに追ってみましょう。

440万年前エチオピアに人類の祖先であるアルディピテクス・ラミダスがいました。身長120㎝ほどで手足が長く、足は手のように指が長いので樹上でも暮らせます。骨盤は二足歩行に適した横広がりの形をしています。これまで最古の人類としてアウストラロピテクスのルーシーが有名でしたが、ずいぶんと遡りましたね。こちらはアルディと呼ばれ、奇跡的に全身骨格が発掘されています。他にも部分的な骨だけであれば、さらに古くから二足歩行していた可能性のある属も発見されています。歴史は常に更新されていきます。

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アルディの歩行姿勢 Wikipediaより

アルディは樹上生活も大地を歩くこともできます。言い方を変えれば、樹の上はサルより苦手、走るのは他の四つ足動物より遅いわけです。そんな中途半端な者がどうして生き残ってこれたのかというと、大地の大変動によって、彼らの弱みが強みへと転換したからです。

アフリカではマントルの上昇によって山脈が現われ、それより東側では乾燥化が進み、樹の減少とともに森の恵みが激減してしまいました。食糧を得るには遠出をしなければならず、ラミダスの二足歩行が有利となりました。ある環境では弱みであったことが、別の環境では最大の強みとなるのですね。パラダイムシフトです!

また家族が生まれつつあったとも考えられていて、それにより夫婦で子育てを行うことで子孫繁栄につながったようです。

370万年前には大地はさらに乾燥が進み、草原化していました。猛獣が多く、隠れるところもないため危険な環境です。トラやライオンのいる草原を丸腰で歩くわけですから。そんな中、10人以上の集団となって行動する者たちが現われました。アウストラロ・アファレンシスです。武器は木の枝や石だけですが、集団で行動することでかろうじて身を守りました。

240万年前、ホモ属(私たちホモ・サピエンスとそれにつながる種)が現われます。ホモ属はひ弱だったのに、他の頑強な種が絶滅していく中で生き残っていったのです。ホモ・ハビリスは石器を発明しました。発明というより、偶然生まれた道具を使い始めたというものだったようですが。食糧が乏しい過酷な環境の中で生み出した道具によって、他の頑強な種よりも有利となりました。

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復元像 Wikipediaより

180万年前にはホモ・エレクトスがいました。(のちにアフリカを出てアジアへ広がります。ジャワ原人北京原人と呼ばれる種も主にこれに属すそうです)

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復元像 Wikipediaより

体毛が薄く身長180㎝とスラリとした体型です。大型草食動物を捕らえ食べていました。狩られる側から狩る側への転身です。エレクトスの骨盤には大きな大殿筋がついていて、優れたランナーだったといわれます。体毛が薄いので体温も上がりにくく長距離を走ることが可能になっていたそうです。また栄養豊富で消化の良い肉を普段から食べるようになったことで腸が短くなり、消化のエネルギーが脳へ回され知能が上がったと考えられています。発掘された頭蓋骨に歯がないものがあって、これはそのような弱者も仲間に助けられて生きることができたということであり、集団で支え合う思いやりの心という人間的な性質の誕生と思われます。

60万年前には大きな脳をもったホモ・ハイデルベルゲンシスがいました。

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復元像 Wikipediaより

その後ヨーロッパや中東で進化したのがネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)であり、アフリカで進化したのが私たちホモ・サピエンスです。

20万年前にはエレクトス、ネアンデルタール人、サピエンスが同時に存在していました。デニソワ人、フローレス原人も。まだ発見されていない種も存在した可能性はあります。

 

二足歩行⇒家族、集団行動⇒道具を作る⇒狩猟⇒脳の発達、心の複雑化

 

19万年前から長い氷期が始まりました(6万年ほど続きます)。

ヨーロッパで寒冷地適応していたネアンデルタール人は生き残り、アジアの北京原人にはさほど影響がなく、アフリカのホモ・サピエンスは絶滅の危機に立たされました。

アフリカは氷期によって乾燥が進み砂漠化していきました。アフリカ大陸の南端にあるピナクルポイントという岬へ逃げたものたちは、かろうじて氷期を乗り越えますが、1万人以下まで激減したそうです。これはボトルネック現象といって、現在76億人もいる私たち人間の遺伝子の違いが少なすぎるということから、いったん激減した遺伝子がのちに増え、そのために多様性が失われたのだという考えに基づいています。

絶滅の危機を救ったともいえるピナクルポイント(岬)の洞窟で、炉の跡や石器、貝殻がたくさん出土しました。貝が採れる場所はアフリカでは極めて珍しく、ここへ逃れてきたサピエンスは、この未体験の食べ物に果敢に挑戦したということになります。これぞ好奇心!

生きるため、森から草原へ、そして海辺へ。私たちの祖先は未知のゾーンへと踏み込んでいったのです。

 

以前記事にまとめたスティーブン・オッペンハイマーの説によると、12.5万年前には間氷期にあたる温暖化が訪れました。サピエンスは紅海西岸で海岸採集と狩猟によって生活していた痕跡が見つかっています。しかし8.5万年前に再び氷期となり海面が一気に80m下降、塩分濃度が上がり海産物が減少します。向かいのアラビア半島南部は湿潤なモンスーン気候のため、サピエンスは対岸へと移っていきました。これが南回りの出アフリカです。

 

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以前の記事で使った出アフリカの地図ですが、そこにピナクルポイントを書き込みました。

 

NHKスペシャルに戻ります。アフリカを出たサピエンスのその後です。

3年前、イスラエル北部のマノット洞窟から5.5万年前のサピエンスの頭蓋骨が発掘されました。そこからわずか40㎞離れたアムッド洞窟から同時代のネアンデルタール人の頭蓋骨が出土しました。これがサピエンスとネアンデルタール人が同時代に同じ場所に存在したことの初の証拠となりました。お隣さんだったのです。

現在、アフリカのサハラ砂漠以南の人を除く世界中の人々のDNAには、ネアンデルタール人のDNAが約2%含まれています。あなたにも私にも。このことが示すのは、アフリカを出たサピエンスがまもなくネアンデルタール人と出会い、交配し(番組では5.5万年前頃としています)、しかもサピエンスの集団はかなり小さなものだったということです。そして両方のDNAを持ったこどもたちが世界中へ広がっていきました。

サピエンスがネアンデルタール人のDNAからもらったものには、アフリカにはなかったウイルスの免疫遺伝子や、高緯度適応遺伝子(日射量の少ない地域に適した白い肌の遺伝子)があります。

異種混合によって、新たな環境に適応できる力をつけていったのです。

ネアンデルタール人と近縁のデニソワ人もこの時期共存していました。デニソワ人の発見は2010年です。現在のメラネシア人はデニソワ人からDNAを数%受け継ぎ、チベット人にも影響がみられ、中国南部やイヌイットにもその可能性がありそうだということです。今年8月に発表された研究では、9万年前の少女の骨片から、母がネアンデルタール人で父がデニソワ人という分析結果が出たそうです。交雑の第1世代の子が見つかる確率を考えると、特に稀なことではないのかもしれませんね。

また同時期にインドネシアには小さな体のフローレス原人がいましたが、エレクトス(ジャワ原人)が島に取り残されて独自の進化を辿ったという説が強いようです。サピエンスがやって来た頃に絶滅しています。

 

ではネアンデルタール人どうしていなくなってしまったのか。次回に続きます。