人類誕生・NHKスペシャル⑶日本へ
1年前の過去記事で、かつて日本列島にやってきた人たち(日本人の祖先)を、南方渡来と北方渡来にわけて詳しく紹介しました。
今回まとめているNHKスペシャルでは3回目の放送にあたります。
番組の前半は「海を渡ったのはサピエンスだけ」としてインドネシア(かつてのスンダランド)から日本へどのようにやって来たかを解説。後半は「極寒で生きたのもサピエンスだけ」として北極圏で生き抜いた人たちが、日本やその他の地域へと広がっていったことを解説しています。海と寒さを克服したサピエンスが世界を制覇したという流れです。
前回記事「人類誕生⑵」で紹介したヤナRHS遺跡の縫い針の話はこの後半からのものです。これを除くとほぼ1年前の過去記事と重なるので、今回は前半部の石垣島、白保竿根田原洞穴遺跡の情報とその他をここに補足して終わりたいと思います。
白保竿根田原洞穴シラホサオネタバルドウケツ遺跡
石垣島のこの遺跡は2007年に空港建設中に発見され、比較的保存状態のよい4個体を含む19体以上の人骨が発掘されました。白保人と名付けられています。
成人男性の全身骨格もあり、これは国内最古の2.7万年前のものであると昨年発表されました。他の人骨も2.7~2万年前の間とされています。洞穴は風葬のお墓である可能性が高いそうです。
旧石器時代の人骨発掘としては世界的にも最大規模なのです。
今年、研究グループによって骨から顔を3D復元したところ、目鼻立ちのくっきりとした南方系の顔であることがわかりました。また頭部には外耳道骨腫(サーファーズイアー)がみられ、日常的に海に入る人だと考えられます。DNAは現在の東南アジアの人に近く、当時ではスンダランドにあたります。現在この辺りからサピエンスの遺跡が続々と発掘されています。
旧石器人、南方系の顔つきでした 石垣島の人骨から復元:朝日新聞デジタル
余談ですが、遺跡発掘と顔の3D復元に携わった慶応大学の河野礼子氏は、もともと人類の進化を大臼歯の形から分析する研究者です。1994年に発表されたアルディピテクス・ラミダスの化石の第一号標本の発見者である、東京大学の諏訪元氏に師事していたそうです。ラミダスといえば今回シリーズの最初に紹介した、440万年前にエチオピアにいた私たちの祖先、二足歩行するアルディのことです。それまではアウストラロピテクスのルーシーが最も古い人類とされていました。
アルディも奇跡的に全身骨格が発掘されました。その2年前、石ころの中から新たな種の小さな歯を見つけた!のが諏訪元氏であり、これがきっかけとなってアルディの発掘へとつながったのです。人類史が大きく前進しました。日本人の活躍にも感動ですが、華々しい大発見の前に積み重ねられた研究者たちの地道な努力と研鑽を感じずにはいられません。
★スンダランドとは氷河期に陸地であったところ。2万年前頃からしだいに水没し始めました。緑の線は大まかな海岸線ですので参考程度に。赤丸は島などを指したので遺跡の場所は不正確です。
海を渡るサピエンス
インドネシアのティンプセン洞窟で、39900年前のサピエンスの洞窟壁画が見つかりました。手形や動物、魚などが描かれています。フランスのショーベ洞窟(3.6万年前)のものよりも古いことになり、これまでサピエンスはヨーロッパで先に栄えたと思われていたことを覆す発見となりました。
さらに台湾の八仙洞遺跡から出土した大量の石器が3万年前のものであり、白保人の年代と同じ頃であることから、大陸と陸続きだった台湾から日本列島へ渡ってきたのではないかと考えられています。
また東ティモールのジェリマライ遺跡からは、マグロやカツオの仲間の骨が大量に出土し、当時すでにボートなどを使って遠洋漁業を行っていたことの証拠となりました。サピエンスはスンダランドから陸路を北上し台湾へ、そしてボートで日本列島へ渡ってきたというのが最も自然な経路と考えられます。
ただし台湾に一番近い与那国島でも110㎞も離れていて、しかも黒潮が流れています。これをどうやって越えてきたのかがまだわかっていません。人類進化学者の海部陽介氏はプロジェクトを起ち上げ、草船や竹船を作って実際に台湾から航海する実験を繰り返していますが、未だ成功はしていません。
ところがオーストラリアのマジェベベ遺跡から最古の石の斧が見つかり、これがあれば丸木舟を当時でも作れた可能性がでてきました。丸木舟は水の抵抗が少なくスピードがかなり速くなります。来年は丸木舟を作って実験する予定だそうです。
ただ疑問なのはたとえ昔と同じ船が作れたとしても、3万年前の海とは黒潮の流れも変化しているので、そのまま結果を反映させることはできないのではないかと思います。船の性能や潮流との関係などを知るには貴重な実験であり、そのあたりも考慮されてのことであれば問題ありませんが。
乞うご期待!